FXの未カバー率とは、業者が顧客の注文で抱えた為替リスクのうち、カバー取引に出さず自社で持っている割合です。
2019年9月から各社が毎月公開しており、2026年8月末のGMOクリック証券は8.53%でした。
この記事では、未カバー率の意味と読み方を、GMOクリック証券とGMO外貨の数字を中心に解説します。
目次
FX業者に義務化されたリスク情報開示制度
店頭FX業者のリスク情報開示は、金融庁が2018年12月25日に公表した「金融商品取引業等に関する内閣府令」の改正案がもとになっています。
- 業者にストレステストの実施
- 2020年1月1日から
- 顧客や取引先向けにリスク情報を開示
- 2019年9月1日から
根拠条文は内閣府令第117条第1項第28号の2
開示が義務づけられた3項目は次のとおりです。
| 開示項目 | 何がわかるか | 望ましい方向 |
| 未カバー率 | 業者が顧客との取引で抱えた為替リスクのうち、カバーしていない割合 | 低いほど業者の 相場変動リスクが小さい |
| カバー取引の状況 | カバー先の信用格付け別の建玉割合(BBB以上/BBB未満・格付けなし) | 格付けの高い先の比率が高いほど安心 |
| 平均証拠金率 | 顧客の建玉に対して どれだけ証拠金が預けられているか |
高いほど未収金リスクが小 (顧客損失が証拠金を超える) |
背景にあったのは「レバレッジ10倍規制」案
制度の出発点は、2017年秋に報じられた個人FXのレバレッジを10倍程度に下げる規制案です。金融庁の有識者検討会で議論が重ねられた結果、レバレッジの引き下げは見送られ、代わりに業者側の決済リスク管理を強める方向で決着しました。
検討会で業者に求められたのは、取引データ報告の拡充、未カバーポジションの開示、ロスカット監視の頻度アップ、相場急変時の対応策、顧客損失を限定する仕組みの検討などです。リスク情報開示はその「落としどころ」として生まれた制度といえます。
なお、この検討会にはGMOクリック証券も資料を提出し、自社のカバー体制を説明しています(後半で詳しく紹介します)。
未カバー率とは?計算式と計測タイミング
未カバー率とは、顧客同士の売買で相殺しきれずに残ったポジションのうち、業者がカバー取引に出していない割合です。各社の開示ページでは、次の式で計算されています。
ここでいう「未カバーポジション」は、顧客の建玉のうち、顧客同士で売り買いが対当しておらず、かつカバーもされていない部分を指します。つまり分母は「顧客全体の買いと売りの差=業者が本来背負う為替リスク」、分子は「そのうち業者が手元に残している分」です。
例えば顧客全体の買いが100万ドル、売りが60万ドルなら、差し引き40万ドルが業者のリスクです。このうち36万ドルをカバー取引に出し、4万ドルを手元に残していれば、未カバー率は10%になります。
10% = $360,000 ÷ |$1,000,000 – $600,000| x 100
計測タイミングは「1日のうち最大の時点」
計測は月末の1日で行われ、インヴァスト証券など複数の業者は23時・25時・27時の3時点のうち、未カバーポジションが最も大きい時点の数字を開示しています。月に一度のスナップショットなので、ある月だけ数字が跳ねることもあります。単月ではなく、数か月分の推移で見るのが基本です。
カバー取引・マリー・DD/NDDの仕組み
店頭FXでは、顧客が買えば業者は売り手になります。業者はこの反対ポジションを、
-
- 顧客同士の注文で相殺する(マリー)
- 銀行などのカバー先に同じ注文を出す(カバー)
- そのまま自社で持つ(未カバー)➡ つまり呑み
のいずれかで処理します。未カバー率は3の割合を示す数字です。
例えば顧客Aが50万ドル買い、顧客Bが40万ドル売った場合、40万ドル分は顧客同士で相殺され、業者に残るリスクは差し引き10万ドルの売りだけです。この10万ドルをカバー先に流せば未カバーは0、流さなければ未カバーは10万ドルになります。
顧客の注文はこう処理される(マリー→カバー)
ドル円を50万ドル買い
ドル円を40万ドル売り
40万ドル分は顧客同士で相殺 → 残りは10万ドルの売りポジション
銀行などのカバー先へ10万ドルの買い注文
業者の為替リスクはゼロ(未カバー率0%)
10万ドルを業者が自社で保有
相場変動の損益を業者が直接受ける
カバーしないで業者がリスクを負う理由の1つに、カバーすると手数料が高い
特に取引量が少ない業者は全部カバーすると儲けが残らないかスプレッドを大きくするしかない。
だが、FX初心者はほぼ負けてくれるのである今もたくさんのFX業者が生き残っている
以下は10年前の本ですが、現在は当時よりはマシになったと思いますが基本は同じかもしれない
DD方式とNDD方式の違い
| 方式 | 注文の流れ | 業者の主な収益 | 顧客との利益相反 |
| DD方式 (Bブック) |
社内でマリーし、 偏った分だけカバー |
スプレッド + 未カバー分の損益 |
起こりうる (顧客の損=業者の得になる部分がある) |
| NDD方式 (Aブック) |
注文を原則すべて カバー先へ流す |
スプレッド + 取引手数料 |
起こりにくい |
国内の大手FX業者は、低コストで狭いスプレッドを提供するため、ほとんどがDD方式です。y
DD方式そのものは違法ではなく、問題になるのは「どれだけのリスクを、どんなルールで抱えているか」です。
その透明性を高めるのが、未カバー率の開示というわけです。
尚、NDDと言っても業者が取引の詳細を公開しているわけではないので
あくまでそう言っているということです。特に海外FX業者の場合
主要FX業者の未カバー率を比較(2026年8月末)
2026年8月末時点で、主要各社の未カバー率は0%から39%まで大きく開いています。最も高いのはDMM FXの39%で、GMOクリック証券8.53%、外為オンライン8.41%が続きます。
| FX業者 | 未カバー率 | 平均証拠金率 | カバー先 (BBB以上の比率) |
| DMM FX | 39.00% | 14.00% | 98% |
| GMOクリック証券(FXネオ) | 8.53% | 11.79% | 100% |
| 外為オンライン | 8.41% | 21.10% | 58% |
| みんなのFX/LIGHT FX | 5.57% | 21.55% | 79.36% |
| 松井証券 | 4.00% | 14.00% | 100% |
| GMO外貨(外貨ex) | 3.02% | 13.76% | 100% |
| インヴァスト証券 | 1.06% | 24.14% | 100% |
| マネックス証券 | 1.03% | 24.28% | 100% |
| 外為どっとコム | 1.00% | 22.00% | 89% |
| 楽天証券 | 1.00% | 13.00% | 100% |
| セントラル短資FX | 1.00% | 24.00% | 100% |
| ヒロセ通商 | 0.50% | 23.10% | 69.9% |
| JFX | 0% | 17.80% | 100% |
| IG証券 | 0% | 24.50% | 100% |
| FXブロードネット | 0% | 16.90% | 25.6% |
| FXTF | 0% | 21.03% | 0% |
| OANDA証券 | 0% | 32.76% | 0% |
| Plus500証券 | 0% | 172.99% | 0% |
出典:FXクイックナビ(2026年9月30日取得)、OANDA証券 開示情報。いずれも2026年8月末計測。
2020年1月と比べると、業界の数字は大きく変わった
開示が始まって間もない2020年1月分では、DMM FXが68%と突出し、残りの業者はほぼ0〜1%台に収まっていました。
当時GMOクリック証券は0.2%でした。
6年半後の2026年8月末を見ると、DMM FXは39%まで下がった一方、GMOクリック証券は8.53%、みんなのFXは5.57%と、0%台から数%台に上がった業者が目立ちます。
「呑みの多い業者が1社だけ」という構図から、各社がそれぞれのリスク許容度で未カバーポジションを持つ構図に変わってきたと読めます。
カバー先「BBB以上0%」は危険信号?
OANDA証券やFXTF、Plus500証券はBBB以上の比率が0%ですが、これは格付けのないカバー先(グループ会社など)と取引しているためで、ただちに危険という意味ではありません。
例えばOANDA証券は、カバー先の全量をグループのOANDA Australia(格付けなし)としています。数字だけで判断せず、カバー先がどこかまで確認しましょう。
GMOに注目:GMOクリック証券とGMO外貨の数字をどう読むか
GMOクリック証券の未カバー率8.53%は、主要業者の中でDMM FXに次ぐ2番目の高さです。
ただし、この数字は「裁量で呑んでいる」ことを意味するものではなく、取締役会が決めた上限の範囲で、システムが自動的にリスクを持つ設計の結果と読むのが妥当です。
GMOクリック証券:国内シェア約2割の巨大業者
GMOクリック証券の「FXネオ」は、2026年3月の月間売買代金が約160兆円で、国内店頭FX全体(約1,167兆円)の約5分の1を1社で占めています(FXなびの集計)。
2021年の年間取引高ではギネス世界記録に認定されたと同社が発表しています。
| 項目 | 2020年1月 | 2026年8月末 |
| 未カバー率 | 0.2% | 8.53% |
| 平均証拠金率 | 15% | 11.79% |
| 顧客の実効レバレッジの目安(100÷平均証拠金率) | 約6.7倍 | 約8.5倍 |
| カバー先 BBB以上の比率 | ― | 100% |
注目したいのは平均証拠金率11.79%で、比較表の中で最も低い水準です。
顧客全体がレバレッジを高めに使っている、つまりデイトレやスキャルピング中心の顧客が多いことを示しています。
カバーは完全自動、上限は取締役会が決める
GMOクリック証券は2018年3月、金融庁の有識者検討会に自社のカバー体制を説明する資料を提出しています。
2018年時点の内容ですが、同社の未カバー率を読むうえで重要なポイントが書かれています。
- 顧客のポジションを通貨ペアごとにリアルタイムでマリー(相殺)する
- 残った未カバーポジションがあらかじめ決めた閾値を超えると、カバー注文をシステムが自動発注する
- 閾値の上限は、自己資本規制比率への影響を踏まえて毎月の取締役会で決議する
- 主要通貨ペアの閾値は、過去の取引・相場データの解析で最適化している
- 週末の急変に備え、毎週末は未カバーポジションを原則ゼロにする
つまり未カバー率は、ディーラーの「勝負」の結果ではなく、会社が許容すると決めたリスク量の反映です。
2020年の0.2%から2026年の8.53%への上昇は、許容量(閾値)の設定が変わったか、顧客の売り買いの偏りが小さくなり分母が縮んだことなどが考えられます。
ただし理由は公表されていません。
カバー先の信用力は業界トップクラス
カバー取引の状況は「BBB以上100%」です。
2018年の資料では、決済を5つのプライムブローカー(いずれもG-SIFIsと呼ばれる世界的な大手金融機関)に集約し、カバー先の破綻リスクを抑えていると説明しています。
価格もカバー先の複数行のレートの中央値から自動生成し、人の手を介さない仕組みです。
GMO外貨(旧YJFX!):未カバー率3.02%
GMO外貨は、ヤフー傘下だったワイジェイFX(YJFX!)を、GMOフィナンシャルホールディングスが2021年に買収した会社です。
2021年9月に「外貨ex byGMO」、2023年7月に「GMO外貨」へ社名変更しました。
| 項目 | 2020年1月(YJFX!時代) | 2026年8月末 |
| 未カバー率 | 1.29% | 3.02% |
| 平均証拠金率 | 17.64% | 13.76% |
| カバー先 BBB以上の比率 | ― | 100% |
GMO外貨もGMOグループ入り後、未カバー率がやや上がり、平均証拠金率が下がっています。
とはいえ3%台は業界の中では中位で、カバー先もBBB以上100%です。グループ全体で見ると、GMOは「取引量の大きさ」と「システムによる管理」を前提に、一定の未カバーポジションを許容するビジネスモデルだといえます。
GMOユーザーが意識しておきたいこと
- 数%台の未カバー率そのものは、自動管理と大手カバー先が前提なら過度に心配する水準ではない
- 一方で平均証拠金率が低い(顧客のレバレッジが高い)ため、相場急変時に業者が受ける未収金リスクは相対的に大きい
- 同社の自己資本規制比率(毎月公表)とセットで確認すると、リスク許容の妥当性が判断しやすい
未カバー率を読むときの3つの注意点
未カバー率は便利な指標ですが、数字だけで業者の良し悪しを決めると誤解が生まれます。押さえておきたいのは次の3点です。
1. 未カバー率0%でもNDD業者とは限らない
計算式の分母は「顧客の買いと売りの差」なので、顧客同士でマリーした分は最初から計算に入りません。
業者が顧客の注文を1件ずつカバーしていなくても、相殺後の残りを全部カバーすれば未カバー率は0%になります。
0%は「業者が為替リスクを残していない」という意味で、「顧客の注文がそのまま市場に流れている」という意味ではありません。
2. カバー先がグループ会社や他のFX業者のこともある
未カバー率0%でも、カバー先が格付けのないグループ会社や、別のDD業者というケースがあります。
例えば2020年当時のJFXは、カバー先の100%を関係の深いDD業者であるヒロセ通商としていました。
未カバー率とカバー取引の状況は必ずセットで見ましょう。
3. 月末1日のスナップショットにすぎない
計測は月末の特定時点のみです。週末前に未カバーをゼロにする業者もあれば、月によって顧客の偏りが大きく変わることもあります。
最低でも半年〜1年分の推移を各社の開示ページで確認するのがおすすめです。
まとめ:トレードスタイル別のチェックポイント
未カバー率は、業者がどれだけ自社でリスクを抱えているかを示す「業者側の体力・方針」の指標です。自分のトレードスタイルによって、重視すべき項目が変わります。
| トレードスタイル | 特に見るべき項目 | 理由 |
| スキャルピング・短期で大きく勝つ | 未カバー率、 利用規約の禁止事項 |
未カバーが多いほど顧客の利益が業者の損失に直結しやすく、約定拒否や取引制限の懸念が高まる |
| デイトレ・スイング | カバー取引の状況、 平均証拠金率 |
急変時に業者自体が耐えられるかが重要(未収金リスク・カバー先破綻リスク) |
| 長期・スワップ運用 | 平均証拠金率、 自己資本規制比率 |
数年単位で口座を預けるので、 業者の財務の健全性を優先 |
GMOクリック証券は未カバー率8.53%と高めですが、カバーは自動化され、上限は自己資本規制比率を基準に取締役会が管理し、カバー先もすべてBBB以上です。
国内最大級の取引量を支える仕組みとしては合理的な設計といえます。一方、平均証拠金率が低い点は、相場急変時のリスクとして頭に入れておきたいところです。
業者選びでは、スプレッドやスワップだけでなく、毎月公開されるリスク情報にも一度目を通してみてください。
数字の意味がわかると、各社のビジネスモデルや「どんな顧客を想定しているか」まで見えてきます。















