利確は早く、損切りは遅い。FXや株の「あるある」です。
含み損を抱えたまま、結局抱えきれずに大きな損失になる、あるいは塩漬けになる。そんな経験は一度はあるのではないでしょうか。
人間のサガとあきらめず、なぜそうなるのかを知っておけば、対処しやすくなります。
プロスペクト理論
プロスペクト理論は、心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーが1979年に発表した、損得がからむ不確実な場面で人がどう選択するかを説明する理論です。実験で観察された人の実際の選択をもとにしていて、行動経済学の代表的な理論になっています。カーネマンはこの研究などで2002年にノーベル経済学賞を受賞しました(トベルスキーは1996年に死去)。
主な特徴は次の3つです。
- 損失回避性
同じ金額でも、利益の喜びより損失の痛みのほうを大きく感じる
例)「100万円の利益」よりも「100万円の損失」のほうを心理的に大きく感じる。後の研究(1992年)では、損失は利益のおよそ2倍(2.25倍)の重さで感じられると推定されています
- 感応度逓減(ていげん)性
利益も損失も、金額が大きくなるほど、さらに増える分には鈍感になる
例)損失が0円から10万円になるのは大きなショックだが、すでに100万円の損失があるときに110万円になっても、同じ10万円ほどには痛く感じない
トレードでは、含み損が膨らむほど追加の損失に鈍くなり、さらに放置しやすくなります
- 参照点依存性
資産の総額ではなく、ある基準(参照点)からの変化で損得を判断する
例)今年の利益が200万円の場合、前年の利益が100万円の人は「100万円増えた」と嬉しく感じるが、前年の利益が400万円の人は残念に感じる
トレードでは、多くの場合「エントリーした価格」が参照点になり、そこから上か下かで気持ちが大きく変わります
プロスペクト理論とトレード
以下の質問に答えてみましょう。
カーネマンが「一つだけの質問による心理学」と呼んだ、短い質問で人の直感的な選択を調べる手法です。
選択肢B: コインを投げ、表が出たら200万円が手に入るが、裏が出たら何も手に入らない
どちらの選択肢も、手に入る金額の期待値は100万円で同じです。
Aの期待値 = 100万円 × 100% = 100万円
Bの期待値 = 200万円 × 50% + 0円 × 50% = 100万円
それでも、一般的には確実に手に入る選択肢Aを選ぶ人が多いとされています。
選択肢A: 無条件で負債が100万円減額され、負債総額が100万円となる
選択肢B: コインを投げ、表が出たら支払いが全額免除されるが、裏が出たら負債総額は変わらない
こちらも両者の期待値は−100万円で同じです。
Aの期待値 = −200万円 + 100万円 × 100% = −100万円
Bの期待値 = −200万円 + 200万円 × 50% + 0円 × 50% = −100万円
質問1で選択肢Aを選んだ人なら、質問2でも確実な選択肢Aを選びそうなものです。ところが、損失の場面になると、ギャンブル性の高い選択肢Bを選ぶ人が多くなります。
実際に、カーネマンとトベルスキーの1979年の論文では、95人に次の2問を出して、はっきりした逆転が観察されています(金額はイスラエル・ポンド)。
| 場面 | 確実な選択肢 | ギャンブル | 選ばれた割合 |
| 利益 | 確実に3,000もらえる | 80%の確率で4,000もらえる(期待値3,200) | 確実 80% ギャンブル 20% |
| 損失 | 確実に3,000失う | 80%の確率で4,000失う(期待値−3,200) | 確実 8% ギャンブル 92% |
利益の場面では期待値が低くても確実なほうを選び、損失の場面では期待値がより悪い(−3,200)にもかかわらず、損失を免れる可能性に賭けるほうを選んでいます。損得の符号を入れ替えると選択が鏡のように反転するので、「鏡映効果(反転効果)」と呼ばれます。
このことから、次のような心理が働いていると考えられます。
- 利益:
- 利益が手に入らないリスクを避けて、確実に利益を得たい
- 損失:
- 損失を確定させるくらいなら、低い確率でも損失そのものをなくせるほうに賭けたい
トレードに置き換えると、
含み益があると、流れが変わって利益が減る・損失になるリスクを避けたくなり、早めに利確したくなります。
含み損があると、ここで損失を確定するよりも、低い確率でも「戻って損失がなくなる」ほうに賭けたくなります。
この傾向は実際の取引データでも確認されています。シェフリンとスタットマン(1985年)は、利益の出ている銘柄を早く売り、損失の出ている銘柄を長く持ち続ける傾向を「ディスポジション効果」と名付けました。オディーン(1998年)が米国の証券会社の約1万口座の売買記録を調べたところ、利益の出ている銘柄を売る割合(14.8%)は、損失の出ている銘柄を売る割合(9.8%)の約1.5倍でした。しかも、売られた利益銘柄のほうが、持ち続けられた損失銘柄よりもその後の成績が良く、この行動は合理的とはいえないという結果でした。
損切りと向かい合う
なぜ損切りができないのか。それは損失を確定させる痛みを避けたいという心理(損失回避性)が、損切りを拒むからです。
含み損を抱えて待っても、価格が戻るとは限りません。戻らなければ、損失はさらに膨らみます。
1回のトレードの結果は運に大きく左右されますが、同じルールで何十回、何百回とトレードを重ねれば、成績は1回あたりの平均(期待値)に近づいていきます(大数の法則)。1回の損切りを「負け」と考えるのではなく、たくさんのトレードの中の1回、ルールどおりのコストと考えるのが第一歩でしょう。
損切りを仕組みにする
心理に逆らうのは難しいので、含み損を抱えてから考えるのではなく、エントリーの前に決めておくのが現実的です。
- エントリー前に損切り位置を決め、逆指値を入れておく
新規注文と同時に決済の指値・逆指値を出せるIFD-OCO注文などを使えば、含み損を見ながら迷う場面そのものを減らせます
- 損切り幅から取引数量を決める
「損切りになったら口座の何%を失うか」から逆算して数量を決めておくと、1回の損切りが痛すぎて切れない、という状況を防げます。含み損で実効レバレッジが上がる点にも注意が必要です
- 安易なナンピンをしない
ナンピンで平均取得価格を下げても、参照点を動かして気持ちを楽にしているだけで、ポジションが増えた分、さらに逆行したときの損失は大きくなります
- 取引記録をつける
利確したトレードと損切りしたトレードの保有時間や損益の大きさを比べると、自分にディスポジション効果が出ているかが見えてきます
実効レバレッジについてはこちら↓
また、含み損が増えたときの手仕舞いの方法として、1/3ずつ決済するやり方を教えてもらったことがあります。
まず保有ポジションの1/3を決済し、残りは状況に応じて決済します。
もしかしたら最後の1/3は利益で手仕舞えるかもしれませんし、そうでなくても、含み損を全部抱え続けるフラストレーションはいくらか減ります。















